第30話|袖ヶ浦に到着

袖ヶ浦の物件には、ほどなく到着しました。


広めの道路と狭い道路に面した矩形の平らな土地で、東南角地、日当たりよし、広さもほどよし。
西側には竹林が生えていて、風をうけてさわさわさわと涼しい音がします。
ひと目見て「ここ、アリかもしれない。」と思いました。
山奥の物件ではないため、まわりには生活する人たちの家があり、田畑が広がっていますが
それが雰囲気を盛り下げている訳ではなく、むしろ、適度に使い勝手のよさそうな場所に感じました。

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とうもろこし畑につづく道。この右側が、物件です。

不動産屋さんのSさんは、夜には合コンの予定がいっぱい入っていそうな若い体育会系風の男性でしたが
「後ろの竹林のタケノコは、春には取り放題です。お子さんも喜びますよ。」
「売主さんもきちんとしていらっしゃるし、日当たりがいいので植物を育てるには最高だと思います。」
と健やかに素朴に勧めてくれました。

家やビニルハウスを建てられる実質面積、443坪。狭くは感じません。
しっかり耕してあって草もぼうぼうに生えてはおらず、すぐにでも使えそうな感じです。


「どう?あなたは気に入った?」
Sさんからちょっと離れたところで、夫にそっと尋ねてみました。
「うん・・・・過不足のない土地だな。まああとでゆっくり考えよう。」
彼は早口にそう言い、いろんな場所に立ってみては、ふむ、と土地の状態を見ながら
何か考えている様子でした。
子供たちはすぐに悪さをはじめていて、排水のU字溝にそのへんの草花をむしって流しては、流れを追いかけて遊んでいます。


「実は、ちょっと前まで築100年以上建つ民家があったんですよ。けっこう立派な家でして。
かなりいい感じに古びていたんですけど、住むヒトがいなくなって廃屋になったら、やっぱり朽ちてきて
最近壊しました。使えない状態になってしまっていたんで。」
人なつっこい笑顔の端に、残念そうな悔しそうな表情をにじませて、Sさんは言いました。特にセールストークとも思えず、損得は関係なしに話したかった、というかんじだったので彼なりに、惜しいものを壊したなという実感があったのでしょう。


「そうですか・・・見たかったな。」
きっと、その家の人達も、この裏の竹藪でたけのこ掘ったんだろうな。
子供もいて、おじいさんおばあさんもいたりして、馴染みよい家でずっと暮らしていたんだろうな。
100年も建て替えずに使っていた民家に勝る、魅力的な家なんてつくれない気がしてきます。


できれば、その民家、再生させて使いたかった。
ちょっとだけ、来るのが遅かったんだ。きれいな更地になっている真ん中に立つと、つい今さっきまでは感じなかった喪失感を覚えてしまい
ああ、そんな感慨は意味ないな。もうその家はないんだから。
と、首を振って自分に言い聞かせました。


にいにとぽちんは、草流しに飽きたらしく、U字溝に小石を投げ込みはじめていました。子供っていうのはどうして、いいことはひとつもしなくて悪いことばかりするのか不思議です。
しかも悪さの度合いがどんどんエスカレートしていく・・・・こんどは二人して瓦礫を投げ込みはじめました。


夫が気付いて「やめなさい!なにしてるんだー!」と怒声をとばしています。
・・・・・悪くない土地だな。どう?買いたいと思う?
ちょっと遠くから、子供達と夫がごちゃごちゃやっている姿をぼんやり眺めながら、わたしは自問しました。


何が問題?問題はとくになさそうだ。インフラもしっかりしている。道もついている。
値段も、そこそこ。もうちょっと値切れば、余力で小さな家だって建てられるだろう。スペックはほぼすべて、満たされている。


「この、細い道をあがっていくと、広いとうもろこし畑に出ますよ。片道5分くらいです。ボクもおいで。歩けるかな。」
Sさんに誘われて、わたしも土地の南側の細い道をのぼってみることにしました。
車が1台、通れるか通れないかというくらい。道の脇は草木が茂っていて、ちょっとした森のトンネルです。
にいには飛ぶように駆け上がっていきます。


「あら、にいに、パパは一緒じゃないの?どこだろう。」
わたしはぽちんをだっこして、Sさんと一緒にゆっくりと歩いていると、後ろから、ごろごろごろごろ、と車の音。
「帰り道が大変だろうから、上で待ってるね。」と言って、軟弱モノの夫はわたしたちを追い越しました。


ゆるい風が心地よく、ぽちんはわたしの腕の中でゆられて、半目になってダラリ。
すごく静かで、平和で、トトロの森を気に入ったサツキとメイのお父さんなら、きっと賛成してくれそうな土地です。
「この近くには、東京ドイツ村というところがあって、そこがうちの家族の遊び場になっているんですよ。
年間パスポートも持ってます。帰りに寄ってみてはどうですか。」
Sさんは軽く息を切らしながら言いました。
「へえ、ご結婚していらっしゃるんですね。」
「今3歳の息子がひとりいて、夏に、もうひとり生まれる予定なんです。」


子供がいるようには見えないなあ、若いパパだなあ。なんてちょっと驚きながら、でも子供がいるヒトは楽だな、と妙に安心しました。
「千葉には、今までほとんど来たことなかったんですが、とってもいいところですね。」
「ええ、自分も神奈川の大学を出たんですけど、地元に戻ってきてしまいました。
まあ、ぐっと田舎ですからね、房総は。田舎の物件は、ご案内するのも楽しいですよ。
お客様もいろんなご要望の方がいらっしゃるし。でも、サボテンが趣味の方は初めてです」


四方山話をしながら坂道をのぼっていくと、にいにがだれかと話し込んでいます。
籠をかついだ、おじいさんとおばあさんです。
「・・・東京から来たんだよ。土地をさがしてるんだよ、うち。パパがサボテンが好きだからさあ。」
にいにはまたいつものクセで、出会いがしらに突然自分のこみいった話をしているようです。
「そうかい。それはたいへんだね。」とおじいさんとおばあさんはよい匂いをさせながらにこにこしています。
見ると、籠の中には、摘んだばかりと思われる水仙の花が、いっぱい。


「気を付けてね。上はとうもろこしの畑だよ。まだ実がついてなくて残念だねえ」
ざっくざっくと降りていく、まるでおとぎ話から出てきたようないでたちの2人を見やりながら
何だか、どんどんトトロっぽくなっていくなあ、と妙に現実感のない気分になっていきました。

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このブログについて

平日は多忙なサラリーマン、だが休みとなると植物栽培マニアと化す夫。膨大な数の珍植物が自宅からあふれ置き場所に困り果てた挙げ句、夫婦の選ぶ道は「田舎で地主になる!」。植物と人間にとって理想の土地を探し求めることに決して妥協しない彼らの「とんでもない紆余曲折」を、赤裸々に綴ったブログ。

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Miori
子供や夫や動物を育てるのが趣味。カフェの窓際でのんびり読書する時間と、家でのんびり造顔マッサージする時間が持てれば幸せ。と、ささやかに都心のインドア生活を楽しんできた主婦が、突如「田舎の土地をゲット」するために髪を振り乱して奔走しはじめる。結婚相手によって、人生が激変することを実感中・・・

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